久保田さんは静かな雰囲気を持つ紳士です。CDジャケットで見かけるように
その指揮ぶりもじつに颯爽としながら落ち着いて見えます。
しかしマンドリン、音楽に対する姿勢はいつも熱く、
今日も、マンドリン界の明日を考え疾走し続けているようです。
自ら主宰するフィロマンドリーネのこと、
自身の指揮者人生、マンドリンに懸ける夢を聞きました。



○●○ 日本にはマンドリン愛好家は多いようですが
どうも一般の人たちに活動の情報が
流れてこない傾向があるように思います。
久保田先生はどういうふうに見ていますか?

久保田 自分で弾いて楽しむ、それ以上のことは
望まないという風潮はあります。
その延長でしょうが、自分の仲間同士で演奏し、
聴いて楽しむ。外の人に聴いてもらいたい
という志向はあまり強くない傾向はありますね。
よく学生にも話すんですが、
いろんなオーケストラ、よその学生オーケストラを
聴きにいこうよ、と言うんです。
それでアンケートも書いてもらい、お互い聴き合う。
演奏会も満席になるじゃないですか。
1000人の会場に300人くらいで
満足しているんじゃなくてね。
もっともっと交流も生まれて、いいものを目指して
って言う風潮ができてくると言いなって思うんです。

○●○   なぜ、外へのアプローチが足りないんでしょうか? 
ある程度演奏がまとまり、
演奏者自身も楽しんでいるというステージは、
一般の人に対しても共感を得やすい音楽会だと思うんです。
高校生オケの技術の演奏でも
そう思わせる演奏ができる。
キャリアが増える大学生ならなおそうだし、
社会人オケなら、さらに上が目指せると思います。
けっきょくスタープレイヤーか、
強力なリーダーが少ないということでしょうか?

久保田 じつは今まで音楽大学には
マンドリン科がなかったんですよ。
マンドリンを教えるアカデミックなシステムですね。
しかし3つできたようですね。
そこの教授たちがいちばん期待されるところ
ではないでしょうか。
 広島のエリザベート音楽大学、川口さん、
愛知音楽大学、名古屋音楽大学ですね。
南谷博一さんがやっていますね。

○●○   そうですか。
久保田 なぜそれが意義あることかと言えば、
たとえばオーケストラを作るときに
人数を集めようとしたとき
音楽大学があれば、たとえばバイオリンなら、
求める演奏技術であるとか
音楽知識を持っている人が集めやすいですよね。
マンドリンではそれができなかった。
だから僕は自分で教えて育て、
自分の生徒を集めてやっている。
ライブとか出してくれといわれることも
ほんとうのオーケストラは
できないよって僕は思うんですけど、ね。
○●○   募集人員は多くはないですよね?
希望者も少ないのかな?

久保田 そうですね。
それに正科で入っているというよりは
ギター科の副科という位置づけのことが多い
ってききましたけどね。
○●○   東京音大もギター科志望の生徒さんは
けっして多くはないと聞いたことがあります。
今後の大きな課題のひとつですね。
ところでマンドリン、そして
マンドリンオーケストラの魅力というのは
久保田先生にとってどのへんですか?

久保田 マンドリンは、そもそもギターとか
リュートとかから分かれてできたと思うんですが、
いわゆる「弦をハジく」楽器ですね。
ドイツでは今もその「ハジく」スタイルを
基本にした演奏をしています。
「ツプフ」といいます。
で、イタリアではミラノ派型のマンドリンから
ナポリ型のマンドリンへ
19世紀半ばにパスクワーレ・ヴィナッチャ
Pasquale Vinacciaが改良した。
それまでの4度調弦だったものを
5度調弦にしました。

○●○   ヴァイオリンと同じ低い方から
G(ソ),D(レ),A(ラ),E(ミ)ですね。
久保田 それからガット弦だったものを
鋼鉄線で2本ずつの復弦にして、
4コースにした。
それによってトレモロ演奏が
自然に聴こえるようにしたんです。
これで音を減衰させずに演奏できる、
クレッシェンドが表現しやすい。
こういう改良ですね。

○●○   なるほど。
久保田 それで当時ロマンティックな音楽が
盛んになったんじゃないかと思うんです。
「音を保つこと」が、必要なことだったんですね。
○●○   その部分では19世紀〜20世紀の変わり目から
もうひとつの流れができたということでしょうか?
久保田 そうですね、一方でドイツでは
ツプフが脈々とありますから。
まあトレモロ主体のナポリ派と
ツプフ主体のドイツでは、音楽の種類も違います。
○●○   そんなに違うんですか?
久保田 ツプフはバロックとか室内楽的なものですね。
僕自身は両方やります。
また、オーケストラ演奏でも、
1曲の中で必要に応じて
両方を使い分ける場合がありますけどね。
○●○   ああ、なるほど。
久保田 マンドリンは人数も少ないですし、
コントラストをつけにくいので、
「ここはツプフにしよう
というふうに使うこともあるんですよ。

(続きます。)

※今回、編集部で伺ったお話は、
この秋創刊予定のFRETS第1号にも掲載予定ですが、
このホームページでも続きを、紹介していきます!
お楽しみに!!

(C)FRETS Mandolin Lovers