ギタリスト伊東福雄さんに腱鞘炎について聞きました。 伊東先生は、昔から腱鞘炎にかかったギタリストを見てきたそうです。 「いいーっぱい、います」、と。 で、なんとご自身も腱鞘炎オーナーとのこと。 しかしレッスンの場面、そしてなにより演奏会でも そんな気配を見えません。 「腱鞘炎は予防がいちばん」。 でもわたしたちは、うまくなることと練習の量は 正比例する、と信じています。 うまくなる・イコール・練習だけではないこと。 自分の身体とのつき合い方にこそ、長くギターを楽しむ秘訣があるようです。 |
- 《掲載予定》
- 第1回 あ、その練習がアブない!!2009年02月01日
- 第2回 親指を制するものはギターを制す2009年02月08日
- 第3回 ヨガや気功から全身のフォームを学ぶ2009年02月15日
- 第4回 姿勢と腰、接骨院とうまくつき合う2009年02月22日
- 第5回 愛用ギターはこれ2009年02月31日
- 第6回 ギター小物渦巻く練習部屋2009年02月31日
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○●○ | 先生にとって腱鞘炎というのはいつ頃からの付き合いですか? |
![]() (▲福雄さん) |
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伊 東 | うーん 、腱鞘炎はねえ、僕より、僕の周囲の人、 友達とかいっしょにギターをやっていた人のほうが早かったな(笑)。 |
○●○ | というと…、学生時代ですか? |
伊 東 | そこまでいかないけど。一番最初に聞いたのは…、たしか なにか輪ゴムと吸盤を使った器具を作って、 右の指の強化運動をしたんだな。 タッチを速くしたくて。 で、やって、おかしくなったというのが一番最初だね。 それは20歳になる前の話だね。 |
○●○ | ほう。 |
伊 東 | さすがにそれはこり過ぎだ、ってことになったけどね。 でもぼくらの時代って言うのは1日6時間くらいは 弾かないとうまくならないだろうとか。 「8時間は当たり前」、と平然と言う人が実際うまかった。 だから、その頃のぼくらは、今にして思えばまったく非科学的な 根性路線のもとに練習してたよね。 |
○●○ | モーレツ時代ですね。 |
伊 東 | 30年前くらいまではそれが当たり前 だったんですよ。いやもう少し前かな… でも人によっては、今もそれが当たり前かもしれないしね。 体育会系の根性路線だよね。 |
○●○ | ジャンルを超えてもそういう風潮があったかもしれないですね。 |
伊 東 | でもその頃からぼちぼちスポーツと科学 というような本が出版され始めたの。 そういう視点が日本にも入ってきたんだ。 で、ぼくはそういうものが好きだったから すぐに読んでみた。 ようするに、「こうすると合理的なトレーニングが できる」ということが書いてあった。 |
○●○ | 「水は飲んじゃだめ」、から、 「積極的に補給した方がいい」、とかもですよね。 |
伊 東 | そう。で、ぼくらは個人でやっていて、 トレーナーとかコーチがいない、 ひとりですべて考えてやらなければいけない。 その中で技術的なことをまず最初にクリアしないと 人前で弾けない。 技術的な問題を考えるよりも先に 「訓練によって弾けるようにする」 という、これはまあ悪癖が残っているんですね。 技術的な問題は「訓練によって克服する」ことが 当然だと思っていた。 右手も左手も弾きにくいところを 反復練習するのがいちばん効率がいい、と。 |
○●○ | 指に覚えさせる、みたいに。 |
伊 東 | そうそう。でも覚えるのは脳だ 指に脳があるわけじゃない、ということは 今はふつうに考えられるけどね(笑) もちろんそれは今だっていちばんいいやり方なんだけど そこに矛盾というのかな、非常に危険な側面があるわけだ。 脳に刷り込むために同じ練習ばかりやっちゃうと 負担がかかる。 だけどそこを通らなくちゃ上手にならない。 |
![]() (▲往年の福雄先生〜1975年頃) |
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○●○ | それで、たいていは、ついやりすぎてしまいますね。 |
伊 東 | そう。しかしね、年を取ると、 かんたんに身に付かなくてもしょうがない 難しいところがすぐにできなくてもしょうがない というあきらめもあって 以前なら1週間でクリアしたいと思ってやっていたことを 1ヶ月かけてゆっくりやる、ということになる。 そういうことで故障を回避する。 あの、骨折からなにから、身体の故障というのは あるところから急にだめになるんですよね。 |
○●○ | どういうことですか? |
伊 東 | ある所の手前までは順調にいっていて あるところにくると急に「パコーン」ってくる。 |
○●○ | ああ…。 |
伊 東 | あるところに崖があって、そこにパコンと落ちちゃうみたいな。 で、落ちちゃうと這い上がるのに何ヶ月もかかる、と。(笑) |
○●○ | ああ、そういうものなんですね? |
伊 東 | この治療は何ヶ月もかかるか、何年もかかるか。 でもね、これ、ふつうに考えれば なにか信号がでているものなんですね。 なにか間節が痛いとか、寝ていて何もしていないのに チクンとするとか。なにか信号があるんですよ。 それを見逃してしまうんですよ。 |
○●○ | 気のせいかな?とか。 |
伊 東 | ああ、練習いっぱいやったな、 その成果、代償だからしょうがない みたいなね。勲章のような…。 |
○●○ | 腹筋やったよく日の筋肉痛のようなものですね? |
伊 東 | だからいっぱい練習して次の日、起きたときに 手を握ると、ごわごわ感があったり むくんでいる感じがあると、 これは休んだ方がいいな、っていう目安にしてるね。 |
○●○ | それは前兆だから気をつけろ!と。 |
伊 東 | それから、初見演奏大会を繰り返さないこと、ね。 |
○●○ | ??…というと?? |
伊 東 | 自分の読譜のスピードと指の対応力が 一致しなくなる危険がある。 そうすると、視覚と実際の運動の伝達の中で パニックがおきる。 つまり「この音が弾きたい」というのが先になって 指に無理させてしまうんだ。 けっこう危険だよ。 |
○●○ | とにかく弾きたいっていう状況ですね。 |
伊 東 | で、先に行かなくちゃいけない。(笑) |
○●○ | つい無理な指使いや体勢でも、出そうとする音優先。 |
伊 東 | そうそう、危ないんだ。シャープやフラットが たくさんついていればそれは薄れるんだけど(笑)。 それから困るのが右の指。スピードが命とばかりに、 タッチの早さを追求してしまう。 ゆっくりなら弾けるというものをどんどんスピード練習でこなそうとしてしまうとまずい。 |
○●○ | ああ、そういうふうにやってしまうこと、よくありそうですね。 |
(続きます) |
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2008-09-01-MON
GuitarCLUB