2008-0901GuitarCLUB


ギタリスト伊東福雄さんに腱鞘炎について聞きました。
伊東先生は、昔から腱鞘炎にかかったギタリストを見てきたそうです。
「いいーっぱい、います」、と。 で、なんとご自身も腱鞘炎オーナーとのこと。
しかしレッスンの場面、そしてなにより演奏会でも
そんな気配を見えません。
「腱鞘炎は予防がいちばん」。
でもわたしたちは、うまくなることと練習の量は
正比例する、と信じています。
うまくなる・イコール・練習だけではないこと。
自分の身体とのつき合い方にこそ、長くギターを楽しむ秘訣があるようです。



○●○    先生にとって腱鞘炎というのはいつ頃からの付き合いですか?
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(▲福雄さん)
伊 東 うーん 、腱鞘炎はねえ、僕より、僕の周囲の人、
友達とかいっしょにギターをやっていた人のほうが早かったな(笑)。
○●○   というと…、学生時代ですか?
伊 東 そこまでいかないけど。一番最初に聞いたのは…、たしか
なにか輪ゴムと吸盤を使った器具を作って、
右の指の強化運動をしたんだな。
タッチを速くしたくて。
で、やって、おかしくなったというのが一番最初だね。
それは20歳になる前の話だね。
○●○ ほう。
伊 東 さすがにそれはこり過ぎだ、ってことになったけどね。
でもぼくらの時代って言うのは1日6時間くらいは
弾かないとうまくならないだろうとか。
「8時間は当たり前」、と平然と言う人が実際うまかった。
だから、その頃のぼくらは、今にして思えばまったく非科学的な
根性路線のもとに練習してたよね。
○●○ モーレツ時代ですね。
伊 東 30年前くらいまではそれが当たり前
だったんですよ。いやもう少し前かな…
でも人によっては、今もそれが当たり前かもしれないしね。
体育会系の根性路線だよね。
○●○ ジャンルを超えてもそういう風潮があったかもしれないですね。
伊 東 でもその頃からぼちぼちスポーツと科学
というような本が出版され始めたの。
そういう視点が日本にも入ってきたんだ。
で、ぼくはそういうものが好きだったから
すぐに読んでみた。
ようするに、「こうすると合理的なトレーニングが
できる」ということが書いてあった。
○●○ 「水は飲んじゃだめ」、から、
「積極的に補給した方がいい」、とかもですよね。
伊 東 そう。で、ぼくらは個人でやっていて、
トレーナーとかコーチがいない、
ひとりですべて考えてやらなければいけない。
その中で技術的なことをまず最初にクリアしないと
人前で弾けない。
技術的な問題を考えるよりも先に
「訓練によって弾けるようにする」
という、これはまあ悪癖が残っているんですね。
技術的な問題は「訓練によって克服する」ことが
当然だと思っていた。
右手も左手も弾きにくいところを
反復練習するのがいちばん効率がいい、と。
○●○ 指に覚えさせる、みたいに。
伊 東 そうそう。でも覚えるのは脳だ
指に脳があるわけじゃない、ということは
今はふつうに考えられるけどね(笑)
もちろんそれは今だっていちばんいいやり方なんだけど
そこに矛盾というのかな、非常に危険な側面があるわけだ。
脳に刷り込むために同じ練習ばかりやっちゃうと
負担がかかる。
だけどそこを通らなくちゃ上手にならない。
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(▲往年の福雄先生〜1975年頃)
○●○ それで、たいていは、ついやりすぎてしまいますね。
伊 東 そう。しかしね、年を取ると、
かんたんに身に付かなくてもしょうがない
難しいところがすぐにできなくてもしょうがない
というあきらめもあって
以前なら1週間でクリアしたいと思ってやっていたことを
1ヶ月かけてゆっくりやる、ということになる。
そういうことで故障を回避する。

あの、骨折からなにから、身体の故障というのは
あるところから急にだめになるんですよね。
○●○ どういうことですか?
伊 東 ある所の手前までは順調にいっていて
あるところにくると急に「パコーン」ってくる。
○●○ ああ…。
伊 東 あるところに崖があって、そこにパコンと落ちちゃうみたいな。
で、落ちちゃうと這い上がるのに何ヶ月もかかる、と。(笑)
○●○ ああ、そういうものなんですね?
伊 東 この治療は何ヶ月もかかるか、何年もかかるか。
でもね、これ、ふつうに考えれば
なにか信号がでているものなんですね。
なにか間節が痛いとか、寝ていて何もしていないのに
チクンとするとか。なにか信号があるんですよ。
それを見逃してしまうんですよ。
○●○ 気のせいかな?とか。
伊 東 ああ、練習いっぱいやったな、
その成果、代償だからしょうがない
みたいなね。勲章のような…。
○●○ 腹筋やったよく日の筋肉痛のようなものですね?
伊 東 だからいっぱい練習して次の日、起きたときに
手を握ると、ごわごわ感があったり
むくんでいる感じがあると、
これは休んだ方がいいな、っていう目安にしてるね。
○●○ それは前兆だから気をつけろ!と。
伊 東 それから、初見演奏大会を繰り返さないこと、ね。
○●○ ??…というと??
伊 東 自分の読譜のスピードと指の対応力が
一致しなくなる危険がある。
そうすると、視覚と実際の運動の伝達の中で
パニックがおきる。
つまり「この音が弾きたい」というのが先になって
指に無理させてしまうんだ。
けっこう危険だよ。
○●○ とにかく弾きたいっていう状況ですね。
伊 東 で、先に行かなくちゃいけない。(笑)
○●○ つい無理な指使いや体勢でも、出そうとする音優先。
伊 東 そうそう、危ないんだ。シャープやフラットが
たくさんついていればそれは薄れるんだけど(笑)。
それから困るのが右の指。スピードが命とばかりに、
タッチの早さを追求してしまう。
ゆっくりなら弾けるというものをどんどんスピード練習でこなそうとしてしまうとまずい。
○●○ ああ、そういうふうにやってしまうこと、よくありそうですね。
(続きます)

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